2005年 02月 08日
猫型ロボットがいなくなってから幾つもの季節が流れたが、僕は正直いまだに彼の事を引きずっていた。
確かにあれから色んな事があった。就職もしたし、恋もいくつかした。新しい友達だって何人もできた。僕は完全に新しい生活を始めていた。 それでも、君を忘れる事なんて出来ないよ。僕はいつも心の中で、新しい友人達と猫型ロボットを比べてしまっていた。友人に優劣をつけようってんだから失礼な話さ。こんな僕を、今君が見たら怒るんだろうな。 金曜日はいつも一人で飲む事にしていた。金曜日は僕と彼が出会った日、そして別れた日でもある。新しい友人達とも、金曜日だけは一緒に過ごす気になれなかった。 ほとんどの金曜日はいきつけの居酒屋でべろべろになるまで飲んだ。センチメンタルに過ぎる事は自分でも分かっていた。でも、止められない。 その週の金曜日はいつもの居酒屋が珍しく一杯で入れなかった。しょうがない。今日は行った事の無い店に行くか。僕は、少し路地裏に入った所でショットバーを見つけた。こんなところにこんな店あったっけ?まあいいや、ここにしよう。 「いらっしゃいませー」 雰囲気のある店だった。なんというか、無気味だ。客は自分の他に一人しかいない。一癖も二癖もありそうなサラリーマン風の男だ。 僕はバーテンにウイスキーの水割りを注文し、それを何杯か飲んだ。いつもより少し早く酔いがまわり、気付くと、僕はそのサラリーマン風の男と話し込んでいた。 「なるほど。親友を失っておつらい、そういうわけですね」 「そうなんです」 「なんとかしてさしあげましょうか」 「えっ」 「でも、思い出は美しいままだからいいのかも知れませんよ?今会えば、幻滅する事になるかも知れない」 「いや、僕はそれでも彼に会いたい」 「後悔しませんか?」 「しません」 そこから先は覚えていない。ドーンとか言われたような記憶がうっすらあるだけだ。 僕が朝目を覚ますと、枕元に猫型ロボットがいた。 「ただいま。のび太君」 おかえり!変わってないなあ。まだ名前間違えてるよ。 でも声が変わったな。なんでだろう。 #
by taketoshinkai
| 2005-02-08 00:06
| うそ日記(猫型ロボット)
2005年 02月 07日
僕の家から、観覧車が見える。
すごく大きいわけではないが、滅茶苦茶小さいわけでもない。さほどカラフルなわけでもなく、本当に地味なわけでもない。実に普通の観覧車。 でも僕は、その観覧車がとても好きだった。 僕はその観覧車に乗った事がない。近付いた事すらない。 いつも遠くから、眺めているだけだ。 観覧車は僕の生きがいであり、希望であった。そこに観覧車があり続ける事で、僕は次の日を迎える事が出来る。 もし観覧車に乗ってしまったら、僕は次の瞬間、人生の目的のすべてを失ってしまう事だろう。もう何も見る必要はなくなるし、何も感じる必要だってない。 だから僕は、観覧車に乗らない。 観覧車は毎日、そこにあった。僕も毎日、ここにいた。 ある雨の日の事だった。僕にとってとても嫌な事が起こった。こんな日は、観覧車に乗りたい。そう思わせるほどの嫌な事だ。 僕は傘もささず、観覧車に向かって歩き出した。まだ乗るかは決めていなかったが、そうでもしなければ僕は消えていってしまいそうな気がして。 観覧車は思っていたより近くにあった。いや、本当にそうか?そう感じただけじゃないのか?本当は観覧車は、すごく遠い場所にあったんじゃないのか? 僕は混乱していた。観覧車すら混乱しているように見えた。 観覧車に乗ろう。きっとそれが一番いい。なんとなくそう思った。 僕は雨でびしょ濡れだったけど、観覧車は何も言わず僕を乗せてくれた。 観覧車の中は、僕が今までに何度も想像したのとほとんど同じだった。僕にお似合いのうす汚れた内装。窓はもちろん、開かない。 観覧車はゆっくりゆっくり進んだ。 動いているかどうかも、もう僕には分からない。どうでもいい事だし。 そしてこの後、どうでもいい僕は、どうでもいい人生を終わらせるかも知れない。 でも観覧車は動き続ける。ゆっくりゆっくりと。 僕は観覧車から見える風景を眺めていた。 片側には住み慣れた町、もう片側にはまったく知らない町が見える。住み慣れた町は、まるで今までの僕そのものであるかのように思えた。 僕は観覧車を降り、これからの僕の方角に向かって歩き出した。 もう二度と、振り返る事はない。 雨はいつの間にか、上がっていた。 #
by taketoshinkai
| 2005-02-07 13:19
| うそ日記
2005年 01月 24日
僕はプロレスラーである。と言っても、僕の名前を知っている人はほとんどいない。
僕は蝶野さんみたいに人気は無いし、中邑みたいに強くも無い、普通のレスラーだ。不良時代はケンカで負け知らずだった僕も、この世界では勝ったり負けたりの繰り返し。当たり前だ。プロの世界は甘くない。 スターになれないまま10年が過ぎ、僕はいつの間にか、ベテランと呼ばれる選手になっていた。 今じゃPRIDEなんていうのが流行ってて、ほんとのプロレスは完全に下火。 こないだ女の子と合コンした時だって「すごーい!私KIDのファンなの!」とか「吉田さんに会わせて〜」とか言われる始末だ。バカヤロー(猪木)。俺が会わせられるのなんて、すげー頑張って天山さんくれえだよ。 ある日、僕がいつものように所属する団体のジムに行くと、僕の次の試合が組まれていた。相手は、アマレスでの輝かしい実績をひっさげた期待の新人。その上、試合の1月24日は僕の誕生日だった。これで気合いが入らない方がどうかしてる。 「よーし!やるぞー!!」 僕が張り切ってストレッチを始めると、トレーナーの内藤さんが申し訳無さそうに僕に言った。 「気合い入ってるとこわりいんだけど、お前次の試合はかませ犬なんだわ。分かるだろ?今あいつに土つけちゃ、ちょっと興行的にまじいのよ。負けてくれ。頼むわ」 一瞬で目の前が真っ暗になった。考えてみれば当然の事だった。プロレスは全部「やらせ」で成り立っている、観るためのショーだ。10年目のベテランと期待の新人なら、どっちを勝たせるかは最初から明白だった。 「おい、聞いてるか?」 「分かってますよ内藤さん。僕らエンターテイナーなんですから」 そして迎えた1月24日。ついに試合のゴングが鳴った。 試合は負けるけど、いいところを見せよう。高く飛んで、早く走って、難しい技を決めるんだ。そうすれば次は、きっと勝ちの試合が巡ってくるはずだから。 「よし!来いや!!」 新人はロープを使い、反動でこっちに向かってきた。僕はそれをラリアットで迎え撃つ。クリーンヒット!新人は倒れこんだ。 おいおい、いきなり倒れんなよ?勝つのはお前なんだぞ。僕は仕方なくフォールし、レフェリーはカウントを始めた。 ワン…ツー…新人はまったく起きる気配が無い…スリー!!カンカンカンカン!! 僕は勝ってしまった。ラリアットの当たりどころが悪かったのだろう、期待の新人は完全にのびてしまっていた。 控え室。僕はうちひしがれていた。 取り返しのつかない事をしてしまった。プロレスにおいて「やらせ」は絶対であり、負ける事が決められている方が勝つ事はありえない。それがルール。 「最悪、破門だな…実家でも継ぐか…」 僕が第2の人生プランを立てていると、控え室のドアが開いた。内藤さんと先輩レスラーたちだ。僕は恐くて、みんなの顔を見る事すら出来なかった。 「本当、すいませんでした!こんな事になってしまって…!」 「誕生日おめでとう」 「クビも覚悟しています!実家のねじ工場を継ごうと…え??」 内藤さんが、笑いながら僕に花束を差し出した。 「ほら。悪かったな騙して。実は、最初からお前が勝つ事は決まってたんだよ」 結局、新人がのびたのも全部「やらせ」だったのだ。 「やめてよね〜こういうの。本当心臓止まるかと思いましたよ…あれっ?」 僕は驚きと安心で腰が抜けてしまっていた。 「おいおい、そんなんで大丈夫か?」 先輩レスラーたちがそう笑ったので、僕はこう返した。 「大丈夫です。プロれすから」 #
by taketoshinkai
| 2005-01-24 15:08
| うそ日記
2005年 01月 21日
「逆に言うとさ、リアス式海岸って事だよねー」
いますよね、こういう人。周りのみんなが使ってるからって、自分も真似して同じ言葉を使おうとする人。でも加藤さん、「逆に言うと」の使い方、間違ってますよ。 「じゃあどういう使い方が正しいのさ?」 そう言われた僕は少し戸惑った。そんないきなり言われても、いい例なんて思い浮か ばないよ。僕が黙っていると、加藤さんは勝ち誇ったような顔をして言った。 「ほら、言えないでしょ。やっぱり私の言ったのであってるのよ」 「いやそれは絶対に違う。『ルージュの伝言の逆はリアス式海岸』って、逆って言うか全然違うだけだもん」 「否定するなら代案を出してよ」 「いや、それは思いつかないんだけど」 「あ、じゃあこういうのは?のび太のものは俺のもの。逆に言うと…」 「なに」 「俺のものは俺のもの」 「間違ってるよ。逆に言うなら『俺のものはのび太のもの』でしょ」 「もー!!」 「それは逆ギレだね。惜しい」 「あ、思いついた」 「多分間違ってると思うけど」 「結婚の前に子供が出来ちゃったカップル」 「順番が逆」 「ほら!」 「なにがほらなんだよ」 そんなやりとりの後、加藤さんはもぞもぞとかばんから何かを取り出した。 「じゃあ、これを逆に言ってみて」 僕が言われた通りにそれを逆に言うと、何故か加藤さんは僕を6回も殴った。 「何すんだよ!?」 「…これ、あげる」 「!!」 僕はこんな不器用な彼女が大好きなのだ。逆に。 #
by taketoshinkai
| 2005-01-21 16:24
| うそ日記
2005年 01月 18日
父に王位を譲った僕だったが、父の突然の死により再び王位へつく事になった。
僕が王子の地位で安穏としていた間に、国の財政は立ち直っていたようだ。 親父、あんたはすげえ人だったんだな。親父にオーストアを任せてほんと良かったよ。これからはまた僕がこの国を守っていきます。頼りないかも知れないけど、天から見守っててくれよな。オーストアは、僕と親父の国なんだから。 ああ、「親孝行、したい時には親は無し」って言うけど、それって本当なんだなあ(ちょっと違うか)。 久しぶりの王の仕事にも慣れてきたある日、僕の元に一人の商人がやってきた。 「こちらの服は、世にも不思議、バカには見えない服でございます」 「ほう(見えないなあ)」 「どうですかこの柄?素晴らしいでしょう?」 「うん、まあ…いい、ね」 「プラダなんですよ」 「(はっ)あ、もしかしてこれ、バカには見えない、でも賢い人にも見えるとは一言も言ってませんよ、とか言うつもりじゃ…」 「王様、見えないんですか?」 「いや、別にそういうわけでは…うん、見えない」 「さすが王様!王様の仰る通り、これは誰にも見えない服なのでございます」 「やっぱり!だましたな!」 「最後まで聞いて下さい。確かにこの服は誰にも見えない、と言うか服ですらありません。空気です。しかし、もしこの服を着た王様が『これはバカには見えない服だ』と言って国民の前に現れたらどうなるでしょう?」 「話が(服も)見えないな」 「バカな国民や子供は『王様は裸だ』と言って騒ぎ立てる事でしょう。しかし、賢い人間はそのバカな国民たちにこう言います。『バカ!空気を読め!そんな事言ったらどんな罰をくらうか分からないぞ』と」 「そういうもんかなあ」 「そういうものです。そして彼らは『王様はそんな事分かってやってるんだ』と、つけ加えるはずです。そこでようやく、バカな国民たちは気付きます。『この服は、そう言う意味でバカに見えないと言っていたのか』と。『自分を犠牲にしてまで僕らにそれを教えてくれた王様はやっぱり素晴らしい』と。どうでしょう王様?国民たちのために、この服、買っていただけないでしょうか?」 僕はもう、ただ頷くしかなかった。 僕は早速服を脱ぎ、裸で国民の前に姿を現した。 「これはバカには見えない服である!しかもプラダ」 国民たちは驚いていた。裸で王様が登場したのだ、無理もない。でもこれは、お前たちのためにやっている事なんだよ。僕はみんなの父親なんだ。父親は子供のためなら、時には犠牲を払うさ。オーストアの歴史はみんなで作っていこう。エイ・エイ・オー! 親父、見てくれているかい?俺、いい王様になるよ!! それから数週間、何故か僕の支持率が大幅に下がったらしい。 「親の心子知らず」ってね。 #
by taketoshinkai
| 2005-01-18 17:20
| うそ日記(新国家)
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