2005年 02月 28日
僕の住む町には、名前が無い。
僕らはこの町を、ただ「町」と呼んでいる。 別にそれで事は足りる。僕らはこの町から出る事は無いし、誰かがこの町に来るという事も無いからだ。この町で生まれた僕らは、この町で死ぬ。そんな事は、僕らにとって至極当たり前の事だった。 もちろん町にも昔は名前があったんだと思う。 でもそれを覚えている人間はこの町にはいない。今この町にいるのは、町が名前を失ってからやって来た、ほんの少しの人間だけだ。 みんな何か事情を抱えてこの町に来た。町は何も言わず新しい住民を受け入れ、町は生まれ変わった。 でも、名前は無い。 町が名前を失ったのには理由がある。まだ僕が若かった頃、僕はそれを祖父から聞かされた。 もうずっと前に死んでしまった祖父は、町が名前を持っていた時を知っている、当時でも数少ない人間の一人であったのだ。 僕が祖父からその話を聞いたのはもうずいぶん昔の事なので、かなり記憶は曖昧だ。でも僕は、思い出せる限りの事を今から話そうと思う。 それがこの町の、歴史を知る者の定めであるから。 祖父は、町は相次いで起こる事故が原因で名前を失ったのだと言った。 かつてこの町から少し離れたところに、空港があった。 そしてその空港の名前は、何故かこの町と同じ名前。空港と間違えた飛行機が、毎日何台も町に不時着したそうだ。 町中の建物は崩壊。住民の数も、日に日に減って行った。 残った人々はほんのわずか。僕の祖父を始めとする残った住民たちは、今までの町の名前を悪魔の名前として封印する事にした。 そうだ思い出した!その悪魔の名前とは、セントレ… 「ズバリ言うわよ。その名前のままだとこういう風になっちゃう。改名しなさい」 「細木先生、絶好調ですね」
by taketoshinkai
| 2005-02-28 01:17
| うそ日記
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