2005年 01月 10日
今日もまた、都会の喧騒から離れ、車で1時間ほどのおじいちゃんちに向かう。
おじいちゃんがたった一人で住んでいるのは、町の中でも一番大きく、一番古い家。その立派な門構えや、日なたぼっこの匂いがする縁側は、まるでおじいちゃんそのものであるかのように感じられた。 おじいちゃんは僕の本当のおじいちゃんではないけれど、僕を本当の子供か孫のように扱ってくれる。時には優しく、時には厳しく。僕はそんなおじいちゃんが大好きだった。 おじいちゃんはいつも僕に話をしてくれた。 おじいちゃんが子供の頃の話。戦争の時の話。出て行った本当の息子の話…。おじいちゃんの話は尽きる事が無かった。ただ物忘れがひどく、何回も同じ話を繰り返されるのには少し閉口したけど。 「はい、おじいちゃんの好きなかりんとう。おみやげだよ」 「ああ、ありがとう。かりんとうか…これを見てると昔の事を思い出すねえ」 「へえ」 「あれはいつだったかな、毎週かりんとうを持って来てくれる青年がいたんだ」 「おじいちゃん、それ僕だよ」 おじいちゃんは耳が遠くて、こっちの言う事はほとんど分からなかったみたいだけど、それでも僕と話すのは楽しそうだった。もちろん僕も楽しかった。 でも今日は、おじいちゃんに言わなきゃならない事があるんだ。 「おじいちゃん、今日は折り入ってお願いがあるんです」 「何だい?改まって」 「実は…」 僕が話し始めようとした瞬間、おじいちゃんの家の電話のベルが鳴った。 「おっと、ごめんよ」 「いえ」 僕は少しホッとしていた。一回深呼吸をして、おじいちゃんに言おうとした事を心の中でおさらいする。よし、大丈夫だ。 その時だった。電話をするおじいちゃんの声が一際大きくなった。 「忠久が、事故!?」 忠久とは、おじいちゃんの出て行った息子の名前だ。 でもおじいちゃん、もしかしたらそれは振り込め詐欺かも知れないよ。今の振り込め詐欺は、家族の名前も調べておくって言うし。 しかし、僕のそんな考えは杞憂に終わる。 「はっは。何を言ってるんですか?息子なら、たった今もここにおりますわい」 そう言って電話を切ったのだ。僕は少し目頭が熱くなるのを感じて、鼻の先に力を入れた。 「おじいちゃん、いや、秋山さん」 「おじいちゃんでええよ。しかしすまんな。息子なんて言ってしまって」 「いえ」 「さて、話というのは何だったかな?」 結局、僕は話を持ち出す事が出来なかった。 また課長に怒られるかな?僕はそんな事を考えながら、「秋山家買収計画書」と書かれた書類をビリビリに破いた。 また、かりんとうを持ってこの家に来よう。今度は、ビジネス抜きで。
by taketoshinkai
| 2005-01-10 16:26
| うそ日記
|
ファン申請 |
||