2004年 12月 28日
もうすぐ、社会人になって始めての年越しだ。
今の会社に入社して早や9ヶ月。思えばこの9ヶ月間は割と苦労を知らずに来た僕にとって、とても長く、そしてつらいものであった。 でも、年末の仕事もいよいよ大詰め。あと少しで入社以来始めての長期休みを得る事が出来るのだ(GW、お盆は返上であったため)。 ああ、年末はどう過ごそうかなあ。やっぱり遠距離恋愛中の彼女と、いや、実家でのんびりってのもありだな。あ、少し疎遠になってる友達とスキーなんてのも…。 なんて僕が考えていると、いつものように怒声を浴びせられた。 「こら!何ボケっとしてんだ!頼んでおいた書類は出来たのか!?」 はいはい、やりますよ。僕は心の中で舌を出し、パソコンに向かう。 怒声の主はいつも課長。彼は僕の直属の上司であり、僕の会社での頭痛の種でもある。明らかに僕に個人的悪意を持っており、何かにつけて僕を目の敵にしてくるのだから、こっちとしてはたまらない。 僕は何とか彼と円滑な関係を結びたいと思っているのだけれど、彼が僕の何を嫌っているのかが分からない。自分で言うのも何だが、僕はごく一般的な新人社員のはずだ。同期の北沢ほどチャラチャラしているわけでもなければ、勝島ほどだらしないわけでもない。彼に嫌われる合理的理由なんて、あるわけがないのである。 一体僕が何をしたって言うのだ?いや、していない(反語)。 僕は無性に腹が立った。 もしかしたら彼は、僕に理不尽な事を言い続ける事によって、他の部下達に「次は自分かも知れない」という危機感を持たせようとしているのではないか? はたまた、ただの人員削減が目的なのでは? どちらにしても、僕が黙って耐え続ける理由は無いように思えた。上司の言う事は絶対なんていう時代は終わったのだ。僕が気持ち良く仕事をするために、いや、ひいては彼のために、僕は彼に文句を言う! 「課長、お話があります」 「なんだね?」 「課長は僕がお嫌いのようですが、僕が一体、何をしたと言うのですか?僕は何もしていないじゃありませんか」 よし、言えたぞ!僕は小躍りしたい衝動を抑え、拳を強く握りしめた。 しかし課長は、感情を抑えようともせずに僕にこう言った。 「なに!あれだけ頼んだおいた書類、まだ何もしていないと言うのか!」 #
by taketoshinkai
| 2004-12-28 15:31
| うそ日記
2004年 12月 26日
今日は忘年会。
いつもの仲間といつもの店で、今年あった嫌な事を忘れるまで酒を飲む。いいねえ。 しかも今日は、僕のお気に入りのエム子ちゃんまで来るってゆうし。いやあ楽しみ楽しみ。えーっと、お店はどこだったっけ?確かこのへんなんだけど。 それにしても、今年は色んな事があったよね。 中でもオリンピックは本当に盛り上がった。 そういえばメダルの数が新記録だったんだよね?そりゃそうだ、たくさんスターが出たもんね。えっと、「超気持ちE」の平泳ぎの人でしょ、谷選手の奥さんでしょ、アニマル浜口さん…あとは覚えてねえや。アテネってどこの国だったっけ? 「韓流」ブームなんてのもあったね。 「冬のソナタ」人気がきっかけで、韓国のスターが日本でも大ブレイク!中でもヨン様こと、ペ・ヨンサマ。他にもイ・ビョンサマだとかチャン・サマだとかがいて、四天王って呼ばれてるらしいよ。あと一人は忘れたけど。 そういえば、お笑いも人気だったね。 青木さんとか、友なんとかさんだとかの女芸人の進出が目立つ年でもあったけど、やっぱり今年はギター侍って言うじゃない?なはは。俺も流行りもの好きだね。 ギター侍の「切腹ですから〜!残念だって言うじゃな〜い?」っていう決め言葉は、流行語大賞にもなったんだよね。あれ?なってないんだっけ?忘れた。 「セカチュー」も流行ったよね。 小説に映画にドラマにマンガ。あらゆるメディアで「セカチュー」現象が起こったよね。「セカチュー」が何の略だったかは、忘れたけど。 なんか忘年会しなくても、結構忘れてるもんだなあ。 そもそも忘年会って、何だっけ? いつもの仲間(由紀恵)と五つ子の店で、昨日見た嫌な夢を忘れるまで飲む。 あれ?そんなんだっけ?なんか、あんまり行きたくなくなってきたなあ。 って言うか…俺は誰だ? 俺は本当に俺なのか?いや、本当の自分って一体何なんだ? 忘れる事を忘れたのは、本当に覚えていると言えるのか? 愛する人に別れを告げる事より、愛する人に愛を伝える方が難しいんじゃないのか? 今を生きると簡単に言うが、流れゆく時間の中で、今という時は厳密にはありえないんじゃないのか!? いけないいけない。思考が混乱してしまった。こういう時は一回深呼吸して、と。 …深呼吸って、何だっけ? #
by taketoshinkai
| 2004-12-26 14:24
| うそ日記
2004年 12月 24日
新メンバーの盗作事件以来、エイドバンドの人気は急落した。
あれだけいたファンの数も目に見えて減っていき、ファンサイトの掲示板では「パクリバンド」と罵られた。音楽業界の移り変わりは早い。エイドバンドは、もう過去のバンドであるかのように扱われた。 僕はそれほどでも無かったが、江口君の落ち込みようは凄まじかった。 それでも事件当初は気丈にふるまっていたのだが、ファンが離れていくにつれ、江口君の心も折れていってしまったようだ。最近では、電話をかけても生返事ばかり。仕事も極端に減っていたので、僕らはもう1ヶ月も会っていなかった。 エイドバンドは、本当にもう終わりなのかも知れないな。 僕は一人でやっていく事を真剣に考え始めていた。 僕は楽器も弾けないし、曲も作れない。歌だって上手いわけじゃない。それでも今の江口君とやってくよりはいい。今の江口君は、ただの憶病者だ。 僕は知り合いの音楽プロデューサーに電話をかけた。今後の相談をするためだ。 その人は紀平さんと言うやり手のプロデューサーで、昔から僕らに目をかけていてくれた。自分のスタジオならいつでも自由に使っていいとさえ言ってくれ、まだなんの実績も無かった僕らに今のレコード会社を紹介してくれた、まさにエイドバンドの恩人なのだ。もしかして彼なら、僕の新しいパートナーを見つけてくれるかも知れない。 「あ、もしもし。紀平さんですか?」 「おう、久し振り」 「あの…実は…」 「ああ江口だろ?今日も朝から来てるよ」 「?」 「ちょっと待ってな。今呼ぶから」 なんで江口君が紀平さんのところに?僕は(やましい気持ちもあり)少しとまどったが、電話ごしに聞こえたその声は、間違い無く江口君だった。 「何でここが分かった?」 「いや…」 「まあいいや。今時間空いてたらスタジオまで来てくれないか?ちょっとお前に話があるんだ」 話とはおそらく解散の事だろう。奇しくも最後だけは同じ事を考えていたようだ。 僕がスタジオに駆けつけると、そこには1ヶ月前とはまるで別人のようになった江口君がいた。髪もヒゲも伸び放題。痩せ細りきった体からは、「エイドバンドのスーパーギタリスト」の面影はまるで無い。 「大丈夫?ちゃんと食べれてるの?」 「そんな事よりこれを聞いてくれ」 そう言って江口君は一枚のMDをコンポに差し込んだ。 その曲を聴いた時の感動を、僕は一生忘れないだろう。美しくて、挑戦的で、不安をかきたてられるような曲。でもどこか懐かしい曲。気付くと僕は、涙を流していた。 「…すげーいい曲だよ」 「サンキュ」 「これ、一人で?」 「一人って言うか…夢を見たんだ」 「夢?」 「ああ。その夢で知らないおっさんに言われたんだ。『俺は仲間と別れて本当に後悔した。俺のようにはなるな』って」 「…」 「ごめんな。俺、こんなつらい思いする位ならバンドなんか解散しちまおうって思ってたんだ。ほんと勝手だよな?お前に相談もしないでさ」 「江口君、俺も…」 「そのおっさん怒ってたよ。すごく怒ってた。『仲間の信用を失ったんならなぜ取り戻そうとしない?逃げていたら大切なものを失うぞ』って。まったくおせっかいな親父だったぜ。長い髪して、だっせー丸いメガネして。でもその親父、めちゃくちゃいい声で歌うんだよ」 「もしかして、この曲…」 「そう、そのおっさんが歌ってた曲。思い出すの苦労したぜえ」 僕は自分を恥じた。この天才から離れて、自分一人で一体何が出来るというのだ? 「江口君、僕を許してくれるかい?」 「うん?なんで謝るの?ポール」 「ポール?」 「そのおっさんが最後に言ってたんだ『お前のポールによろしく』って。どういう意味だろ?」 「さあ?」 こうしてエイドバンドは復活のシングル「Get Back」をリリースした。 でも、インターネットの「パクリバンド」論争はさらに熱が増したんだよなあ。なんでだろう。 #
by taketoshinkai
| 2004-12-24 04:04
| うそ日記(エイドバンド)
2004年 12月 21日
「ごめん。クリスマスは仕事で会えそうも無いや」
「また〜?」 私には、付き合って3年になる彼氏がいる。 年上で、大柄で、ヒゲがキュートな彼。彼と出会ったのは、3年前のちょうどクリスマスの日だった。 つまり、私達にとってクリスマスは「出会った記念日」でもあるわけだ。それなのに、3年前のクリスマス以来私達はいっしょに過ごした事が無い。 「今年こそは一緒に過ごそうね、って言ったじゃない!」 「ほんとごめん。仕事がどうしても断れなくて…」 「だから何の仕事なのよ?私次の誕生日でハタチになるのよ!もう大人なんだからいい加減教えてくれてもいいじゃない!」 「いつも言ってるだろ。守秘義務があるんだよ」 彼は自分の仕事を明かしてくれない。 私は、彼が「守秘義務があるから教えられない」と言う度に、信用されていない気がして悲しかった。三田君(彼の名前)たら、私の気持ちも知らないでさ。守秘義務て。スパイかよ。 私は心の中でそう言ったつもりだったのだが、どうやら口に出ていたようだ。 「スパイかよ」 「違うよ。分かってくれよ〜。俺の口からは言えないんだよ」 「俺の口から?私が当てるならいいって事?」 「それならまあ。大きな声じゃ言えないけどね」 「悪い事してるの?」 「神に誓って悪い事はしてないよ」 「う〜ん。あ、あなた海外によく行くわよね?て事は旅行代理店とか?」 「違う。ノルウェーに本社があるんだ」 「もう。分かんないわよ。どうせ適当な事言ってごまかす気なんでしょ」 「そんな事は無いよ。じゃあ最大のヒントを言うから、よく聞いてね」 「勿体ぶっちゃって」 「じゃあ歌うよ。♪恋人はサンタクロース、本当はサンタクロース」 「…」 「♪恋人はサンタクロース、本当はサンタクロース」 「なんでそこばっか歌うのよ」 「その後がわかんねえんだよ」 「♪恋人はサンタクロース…か。あっ!」 「分かった?」 「歌手!」 「違う!」 結局彼は私に仕事を告げないまま、私は一人でクリスマスを迎える事になった。 三田のバカ。あなたの仕事がサンタクロースだって事くらい、とっくの昔に気付いてるわよ。私は、あなたの口から聞きたいだけなの。 一人で開けたシャンパンはちっともおいしくなくて、酔いばかりまわった。 …知らない間に眠っていたようだ。気がつくと、辺りは真っ暗になっていた。 飲み過ぎで頭がズキズキする。こんな女、三田君が見たら愛想つかしちゃうかしら。 その時だった。家の暖炉の方から、逃げるような物音が聞こえた。 三田君だ!! 「三田君なんでしょ?なんで逃げるのよ!?」 「私は三田君じゃない!」 私は必死で追い掛けた。今夜こそ、三田君に本当の事を言わせてやる!現行犯で捕まえれば、よもや嘘はつくまい。私は(自称・三田君じゃない)男の襟首をつかみ、引きずり倒した。 「さあ三田君、観念しなさい!…あれ?」 倒された男の顔は、三田君のそれとは似ても似つかない、まさに典型的なサンタのそれであった。なんで?じゃあ三田君は? 私が呆然としていると、男(サンタ)は走って逃げていった。 全く訳が分からない。私はため息をつき、夜空を見上げた。 幾千もの星の間を、さっきのサンタが、赤い鼻をしたトナカイのそりに乗って飛んでゆくのが見えた。きっと、次の町の子供達が待っているのだろう…って、あれ!? 私は吹き出してしまった。 多分彼の仕事に守秘義務なんて無い。彼は自分の仕事を言うのが恥ずかしかったのだ。そう考えたら、彼が仕事を教えてくれないところもとても愛しく感じた。 多分彼は来年もさ来年もクリスマスに会ってはくれないだろう。 サンタクロースには、彼の真っ赤な鼻が必要なのだから。 #
by taketoshinkai
| 2004-12-21 18:46
| ベストセレクション
2004年 12月 17日
「お宅の娘は預かった。返して欲しくば100万円用意しろ」
娘が誘拐され、脅迫の電話がきた。警察に言えば娘を殺すと言う。 僕は悩んだ。 金の問題と言う訳では無い。僕ももういい年で、会社での地位もある。100万くらいの金を用意する事はやぶさかでは無いのだ。 しかし、僕は娘にほとほと愛想が尽きていた。高校中退でプータロー、バイトすらしないで親から金をせびりとり、毎日朝まで遊び歩く娘。あげくの果てには「洗濯物は親父のと別に」とか「お風呂入ったらお湯捨てて新しいの入れといて」と言う。 そんな娘をどうやって愛せというのだ?僕はむしろ、お金を払ってでも娘を引き取ってもらいたいと思っている。これは絶好のチャンスだ。逃す訳にはいかない。 しかし、自分にとってどうするのが最善の策であるのか? もしここで犯人の要求を呑まずつっぱねたとしよう。 おそらく犯人は怒り、娘は殺され、事は公になる。新聞や週刊誌に「父親、娘見殺し」の文字が踊り、世間からは冷たい目で見られる事だろう。もしかしたら仕事さえ失う事になるかも知れぬ。これは良くない。 妻に相談してみようか? しかし娘と割合仲の良い妻は、100万ぽっち払うと言い出す事だろう。そもそも妻は、少し娘に媚び過ぎている節がある。家族の一員としての義務も果たせない娘に、身代金を払ってやる事なんて無いのだ。 思いきって警察に言ってみるのはどうだろう? いやいや日本の警察は優秀だ。誘拐しておいて身代金を100万しか要求しないまぬけな犯人など、すぐに捕まってしまう事だろう。そうすれば娘は帰ってくる。また地獄の日々が始まるのだ。それだけは避けたい。うーん、あんまりいい案が浮かばないなあ。 「おい、聞いているのか?」 犯人にそう言われてはっとした。僕はずっと黙っていたようだ。いけないいけない。とにかく時間だ。時間を稼ごう。そうすればいいアイデアも浮かぶかも知れない。 ええと、こういう時はなんて言うといいんだっけ。 「む、娘の声を聞かせてくれ」 「…いいだろう」 受話器の向こうから聞こえてくるのは、確かに娘の声だった。娘の声は小さく震えている。 「…お父さん?ごめんなさい、こんな事になっちゃって」 「いや(さすがにしおらしくなってるな)」 「でも、もういいよお父さん。私分かってるんだ。ウチにそんな大金無いし、もしあったとしてもそれを私には使わないって事」 「ぐっ。そんな事はないぞ(図星だ)」 「私、悪い子だったもんね」 「…」 「…覚えてるお父さん?」 「何をだ?」 「私が小学校4年生の時、お父さんの昇進祝いで家族でスキーに行った事。夜のゲレンデでみんなで星を見て、お母さんがこう言ったの。『また来年も来ましょうね』って。でもお父さんの仕事は前よりもっと忙しくなっちゃって、あれからまだ一度も行けてない。…あれ本当に楽しかった。もう一度だけでもいいから行きたかったな、スキー…キャッ!!」 「おい!どうした!?おい!!」 「…おしゃべりはここまでだ。払うのか払わないのか、どっちだ?」 声は犯人のそれに代わっていた。そしてその瞬間、僕は自分でも予想だにしなかった事を口走る事になる。 「払う!払うから娘の命だけは!!」 「よーし分かった。金は明日までに指定の口座に振り込め。口座番号は…」 僕は言われた通り身代金を指定の口座に振り込み、娘は家に帰ってきた。 娘もしばらくはしおらしくしていたが、今では元通り。でもこれで良かったんだと思う。親は子供を守る。家族ってのはそういうもんだ。 でも、あれ以来娘のカッコがいやにきらびやかになったのが気になるなあ。 #
by taketoshinkai
| 2004-12-17 04:41
| うそ日記
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