2005年 02月 10日
「マック、起きて。仕事に遅れちゃうわよ」
電話から聞こえる聞き慣れた声。電話をとった男は小さくうめくように「ああ」と答え、電話を切る。「これで朝だってんだからな」男は暗闇の中で、一つ大きなあくびをした。 男の名前はマクドナルド。通称マック。 彼は毎日、ガールフレンドのミニーの電話で目を覚ます。彼の家には窓が一つも無いため、朝が来た事が分からないのだ。彼は雨と窓が大嫌いだった。 そして、今日は生憎の雨。 りんご農園を経営する彼にとって、雨は喜ぶべきものなのかも知れない。しかし彼は雨を嫌った。彼は雨が体に触れると、必ずと言っていいほど調子が悪くなった。 「ちくしょう。今日は大事な日だってのに」 彼は雨を呪ったが、もちろん雨は降り続けた。 今日はとても大事な日だ。 今日の夜は、いつもと同じようにミニーとのデート。そして彼は、今日の夜ミニーにプロポーズする気でいた。 よもやミニーは断るまいが、それでも結婚は一生に一度(とも限らないが)の大イベントで、それは彼を十分に緊張させるものだ。彼は、昨日練習を重ねたプロポーズの台詞を、彼女との待ち合わせのレストランで何度も復唱した。 「ごめんなさい遅れちゃって。ちょっと病院に行ってたものだから」 彼女は待ち合わせに少し遅れてやってきた。もちろん彼女はいつものように美しかった。彼女と会うと彼はいつも幸せな気分になる。彼はとりあえず、ソムリエを呼んで食前酒を注文した。 食前酒を飲みながら、彼は話し始めた。 「今日は大事な話があるんだ」 「あら、何かしら」 「僕と結婚してほしい」 「…」 「君は僕の太陽だ。君がいなければ、僕の畑には毎日雨が降り、りんごは腐り、僕の調子も悪くなってしまうよ。ずっとそばにいて、僕を照らし続けてくれないか?二人で一生、暮らしてゆこう」 決まった…。彼は自分の言葉に酔いしれた。あとは彼女の返事をもらうだけだ。 「…それは無理よ」 「そう、無理…って、え!?」 彼は慌てふためいた。まさかミニーがプロポーズを断るとは夢にも思っていなかったからだ。 「なぜだい!?僕の家に窓がないからかい?僕は君が言うなら、一つだけなら窓をつけてもいい覚悟はしているよ。あっ、お金のことかい?なら心配いらないよ。最近すごく経営の調子がいいんだ。こないだは名古屋にも新しいりんご農園を作ったんだよ。だから、だから、そんな事、言わないで!」 「三人よ」 「?」 「三人で一生暮らしてゆくのよ。あなたと、私と、このおなかの子供で…」 「ミニー…」 「三か月だって。あなたがパパよ」 マックとミニーは結婚した。 新しい家を建て(窓も一つだけ)、子供も来月には産まれる予定だ。二人は幸せだった。 「なあミニー」 「なあにマック」 「僕たちの子供の名前、どうする?」 「実は考えてあるの」 「なんだい?」 「マックJr.と言うのはどうかしら?あなたのような人になって欲しいわ」 「なんだか気恥ずかしいな。ああ。それなら、この名前はどうだい?」 「なに?」 「マックミニ。僕ら二人の名前をつけるのさ」 「素敵!」 こうして、マックとミニーとマックミニの三人は、いつまでも幸せに暮らした。 「…というふうにして、Mac miniは出来たわけだ」 「お前とパソコンの話なんてするんじゃなかったよ」
by taketoshinkai
| 2005-02-10 18:58
| うそ日記
|
ファン申請 |
||